音 楽 監 督

かずさアカデミア音楽コンクール
音楽監督

   三 善  晃



《今日と未来への期待)
第2次予選からかずさアカデミアに通う予定だったが、結果的には今日の本選だけを聴かせていただくことになってしまった。応募者にも審査員の諸先生にも主催者当局にも申し訳なく、自分も残念だった。
 ほんとうは、第1次予選から聴かないとコンクールの「なかみ」はつかめないものだ。とりわけ本選の前の予選は重要で、このステージには才能、技術、将来性などさまざまな観点が応募者それぞれへの評価のなかで錯綜し、優劣をつけがたいことが間々ある。実際、この段階を通過できなかった応募者が後に大成したという例は少なからずある。
 とは言え、ファイナリストたちは予選各ステージでの相対的かつ総合的な評価を勝ち得てきたわけだから、優勝ないし入賞の可能性のベクトルが最も高い人たちであることも確かだ。審査員はみな、第1次予選から本選まで、応募者の演奏と自分の価値観・音楽観の共鳴度を確かめながら審査を重ねている。だから本選にもなれば、審査員は出演者たちそれぞれの個性や特質を充分に把握したうえで、期待を込めて聴くことになる。実際、コンクール本選での審査員の気持ちは共演者か指導者の気持ちと同じだと言ってもよいだろう。このことは、応募する側にはあまり知られていないことだが、コンクールの一般論としても信じてもらってよい。今日の本選でも、審査員の先生方の心は、期待で一杯だと思う。審査とは「音楽をする」ことであり、先生方は今日まで応募者と一緒に「音楽をして」きたのだから。
 今日初めて聴かせていただく私は、虚心に聴こうと思う。それにはそれで、8人の若いピアニストたちそれぞれとの出遇いの欣びがあるだろう。そこにも期待がある。思えば、「かずさアカデミア・コンクール」そのものが《若さの未来への期待〉から出発したのだった。